貧乏シェアの熟年離婚
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今国会で話題の公的年金制度大幅改正。国民年金、厚生年金、共済年金等を5年に一度見直すと法律に定められてはいるものの、不況の中、給付削減と負担増が盛り込まれた改正に対して国民の不満感情が高まっているのは自明の理である。ところが、一部ほくそえんでいる女性たちがある。「夫の厚生年金受給権分割」が2007年4月に施行されるのを待って、すでにその準備に入っている熟年離婚予備軍の妻たちである。年金受給権分割は、本当に熟年妻の味方となるだろうか。
「私は一昨年からずうっと楽しみにしていたんですよ。今回の年金受給権分割が法制化されるのを。それなのに、施行予定は2007年ですって? ああ、このうえ3年も待たされるのね、今まで34年間も我慢して待ったのにねぇ」
離婚相談に来所した58歳専業主婦の妻が語る34年間とは、夫との結婚から数えての年数である。その間に2人の娘を産み育て、娘たちは嫁ぎそれぞれに子どもを成している。もうこれ以上夫婦でいる理由がないと妻は言い、施行の時期が遅過ぎると嘆いているのである。
「だってねぇ、施行より先に離婚してしまったら年金受給権の分割はできないんでしょう。それほど損な話はありませんよ。あと3年も黙って待つしかないのかしらねぇ」
今国会での成立をはかる年金改正法案は、2001年末に報告された「女性とライフスタイルの変化等に対応した年金のあり方に関する検討会」にはじまり、最終的に2003年、社会保障審議会年金部会が「年金制度改正に関する意見(案)」にまとめたものが礎となっている。いかにも女性(なかでも第3号保険者)の味方をしているかに見られるが、本当にそうだろうか。意見書によると、夫婦の合意によって分割するかどうか、その分割割合を決めることになっている。
しかし、およそ、離婚する夫婦の「合意」ほど困難なものはない。審議会は、離婚の現状をどうやって調査したのだろう。すでに存在している財産を分与したり、明らかに悪い原因を作った相手に請求する慰謝料ですら、着地点を見つけるためにどれほどモメるかご存知ないのだろうか。では、分割割合を裁判で決めることができるかといえば、裁判では請求できないと(意見書は)言う。さて、困った。そんなことで法改正されるのであれば、絵に描いた餅ではないか。
今の時代、離婚は年々増加しているが、その増加を支えているのは結婚20年以上の熟年層だ。1985年頃から急激に増加しているのである。年金受給権分割が施行されることによってさらに熟年離婚が増加するのは確実だろう。
離婚相談を行っている私が言うのも妙だが、熟年離婚なんて、妻たちが夢見るほど素敵なものではない。あらゆる離婚相談に対して勧めることも止めることもしていないが、熟年離婚にかぎっては、一度だけは止めてさしあげている。年金分割でもやはり止める。すべての財産は分ければ減るのである。人生の成果物を得る熟年の時期になにもわざわざ減らさなくてもいいだろう。老後の経済苦はみじめだ。
熟年離婚は経済苦である。困窮した妻が生活保護に頼らざるを得ない場合も多い。したがって生活保護予算は上昇する。ところが年金分割を導入することによって、熟年離婚に伴う生活保護部分は必要なくなる。妻も、憎い夫から年金を取ってやったと満足できるのだろう。なんだかキナ臭い。これでは、生活保護のかわりに年金分割というかたちで、国に代わって別れた夫個人が別れた妻の老後の責を負うことになる。まるで、貧乏をシェアしろと言われているようだ。
夫たちには気づいてほしい。妻が、あなたの年金の一部をぶん取って別れるために情報を集め画策していることに。
「ねぇ池内さん、私はずうっと我慢だけしてきたのよ。年金改正を待つ間に何かいいプランはないかしら?」
ある。今からでも遅くはない、夫婦をやり直すというプランだ。34年間、夫婦関係をよくするでもなく、夫を教育し直すでもなく、見切りをつけるでもなく、ただ我慢だけしかしてこなかった五八歳の女性が1人で生きていくには、日本はあまりに厳しすぎる国だ。将来、痛む足を引きずって福祉窓口へ日参するよりも、今、少しの笑顔を夫に向けるほうが楽だよと、あなたの妻に教えてあげてほしい。施行予定までまだ3年もある。今ならまだ間に合う。年金分割施行だけを楽しみに待つ、おろかな妻を諭してほしい。
出典:熟年離婚は貧乏をシェアするだけ(ダイヤモンド社「経 Kei」4月号掲載)
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