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慰謝料、財産分与など全額用意させて同時に離婚

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池内 離婚のカウンセリングにいらっしゃる方のお話を聞いていると、最終的にモメるのはやっぱりお金の問題ということが多いようですね。
小池 だいたい離婚の弁護の場合、女性の側に立つことが多いのですが、離婚給付をできるだけ多く確保するのが第一の仕事といっていいでしょうね。で、我々が離婚の手続きを進めるとき、いちばん最初にチェックするのは何かというと、不動産なんです。自宅は通常、夫名義になっていることが多いですよね。それが売却される恐れがないかどうか。だいたい、不動産が離婚給付の担保価値になりますから、それを現実的に確保する。万が一ということがありますから、万全を期すためには、不動産に対して仮差し押さえをします。夫婦の共有名義になっていれば比較的安心ですが。
池内 家を建てたとき、妻側の親から借りるという形で資金援助を受けている場合、それは戻ってくるんでしょうか。両親から援助を受けている平穏な時期には誰も貸借書類など作ってないんですよね。
小池 妻の財産分与は原則として2分の1、今の状況では2分の1から3分の1というところです。だとすると、財産分与に当たる不動産の半分の金額のほうが、ご両親から借りた金額より大きいわけでしゅお。だから、まずそこを確保することが先決問題になります。その中で「ご両親への返済はこれこれという形で」という話し合いになっていくのではないでしょうか。
池内 夫と妻が同じ家に住んでいながら離婚の話し合いをするのは感情的にも難しいですから、奥さんが子どもを連れて実家に帰るというケースも多いんです。そうすると家を相手に取られて、不利になるんじゃないかと思うんですが。
小池 比較の問題ですが、有利か不利かという点でえいえば不利になりますね。人が住んでいれば物件は売りにくいですから、ある程度売却を思いとどまらせるプレッシャーになるでしょう。しかし、安心できません。仮差し押さえをしてあれば問題ないんですが。ただ仮差し押さえするには経費も保証金もかかりますから、そこまでやらないことも多いですね。
池内 仮差し押さえに必要な金額というのはいくらぐらいですか。
小池 不動産の時価の1割ぐらいが保証金になります。
池内 実家に帰るときは、権利証を持っていくということですね。
小池 そのほうがいいでしょうが、それで安心ということにはなりません。権利証がなくても不動産を売却することは可能ですから。実印だって、変えられたら終わりですからね。
池内 分与の対象となる不動産があればまだ幸いと思いますが、日本の場合、財産分与の対象自体、そんなにないでしょう。そのたいして多くない財産を取り合わなければならないというときは、やっぱり弁護士さんに依頼したほうがいいんでしょうか。
小池 慰謝料にせよ、財産分与にせよ、相手がお金をもっていなければ、ろくな離婚給付になりません。夫に経済力がない場合は、借金させてもといっても限度があるでしょう。弁護士がついていても、なかなか大変です。
池内 法律上、たとえば裁判にもち込まれて「夫側は慰謝料をこれだけ払いなさい」と判決が出たとしますよね。それでも、支払わなくていいんですか。
小池 たとえ裁判で「○○円支払いなさい」と判決が出ても、払えないものは払えないということがある。普通のサラリーマンなら給料を4分の1差し押さえて回収するという方法はありますが、何年かかって回収できるかという問題もあるでしょう。
池内 給料を差し押さえられると、男性は出世できなくなると聞きます。そうなると差し押さえたくても遠慮してできなくなりますよね。結局、日本は男性には「離婚天国」なんじゃないでしょうか。慰謝料、財産分与の合計の平均が406万円という現実を考えても。
小池 普通の若いサラリーマンは100万円揃えるだけでも大変ですよ。借金してでも、せめて100万円くらいは用意しろということは、あるのですが。
池内 それは慰謝料ですか。
小池 ええ。給料を差し押さえるというのも迂遠だし、いろんな問題がありますから、できるだけ一括で解決するのが上手な方法といえばいえるかもしれませんね。慰謝料、財産分与、全額用意してもらって同時に離婚する。分割の場合でも、できるだけ頭金を多くする。
池内 もらう側にしても一括でいただいておかないと不安ですね。分割にしたら、約束だけはしたけれども守れなかったということがよくありますから。
小池 そうですね。分割の場合には将来の事情変更という可能性があるんですよね。再婚するなどして事情が変わっても、基本的には支払わなければならないんですけれど。
池内 法的にはどれぐらいの期間、拘束力があるんですか。
小池 法的には、期限はありません。いつまででも、です。
池内 支払われなくなったときの罰則というのはないんですか。
小池 刑事罰というのはありませんからね。民事上、支払いを怠ったときは損害金を上乗せして払うと約束させることもできますが、そもそも払わない人がさらに上乗せして払うこともあまりないですから、実際問題としては取りはぐれになることが多いですね。それを防ぐために不動産があれば担保提供させることもあるのですが。
池内 調停が終わって調停調書の中に金額を書き込んだり、あるいは公正証書を作っておいたりしても、相手が払えないと言ったらそれまでなんですか。
小池 方法がないわけでもないんですよ。実際に私が担当したケースで、若いサラリーマンだったんで、金額的にはさほど大きくありませんでしたが、夫は離婚給付の頭金が少ししか払えず、あとは分割ということになっていたんです。ところが、1年経つか経たないうちに、支払いが滞ってしまった。なぜ支払いがストップしたのか調べてみると、その元夫は別れるときから付き合っていた女性と再婚していたことがわかりました。それじゃあと給料を差し押さえても迂遠な話になりますから、何か手っとり早い方法はないかと考えまして、滞った残金を債務名義というんですが、それに基づいて新婚家庭のテレビや冷蔵庫を差し押さえたんです。
池内 新婚家庭を差し押さえたわけですか。
小池 ええ。そうしたところ、途端に舞い上がった彼は残金を全部支払って、無事解決しました。彼のほうは、せっかく離婚して再出発したのに、前の奥さんをまだ引きずっているのかと、新しい奥さんから突き上げを喰らったんだろうと思いますけどね。
池内 そういうケースの場合、離婚する前から新しい奥さんとお付き合いしていたわけじゃないですか。彼女に、夫婦関係を壊したことに対する慰謝料を請求することはできないんですか。
小池 請求することはできますが、このケースは彼女も働いていませんから、難しいでしょう。
池内 不倫相手が働いていたりしてお金をもっていれば、請求するべきものなんですか。
小池 今お話したようなケースで、彼からほとんど支払いが期待できない状況で、なおかつ新しい奥さんのほうが財産をもっているという場合、それは当然検討されるでしょうね。夫婦関係を壊したので慰謝料を請求するという根拠で、新しい奥さんの財産を差し押さえる手続きをとって、彼と約束した離婚給付を実質的に回収する方法はとれるとは思います。ただ、今の世界的な流れからいいますと、奥さんが夫の愛人に対して慰謝料を請求するということが、だんだん認められにくくなるのではないでしょうか。
池内 どういうことでしょうか。
小池 1996年に婚姻関係がすでに破綻していたときには、特別な事情がない限り、愛人には責任がない、という最高裁の判決が出されました。学説では婚姻関係の破綻の有無にかかわらず、愛人には責任がないという考え方が強まっています。そもそも夫婦の間の問題の責任は基本的に夫婦にある。奥さんの側から見て、1次的な責任はあくまでも夫にあり、愛人には副次的な責任しかない。それなのに、愛人に対してまでも慰謝料を請求するのはおかしいという考え方が広まってきているんです。これを「男女関係の市場原理」という言葉で表現する学者もいますが、要するに男女問題に関してはどっちがいい悪いということではなく、市場原理と無縁ではあり得ないということですね。破綻にはいろいろな要因が絡み合うから被害者、加害者の図式になじまない。浮気は悪いことかもしれないけれど、浮気させるようにした相手に問題はなかったのか……。こんなことを言うと、女性から猛反発を喰らうんですが(笑)。
池内 でも、おっしゃることはわかります。恋人ができたから私たち夫婦は壊れたと言うけれど、そもそも夫婦がうまく機能してお互いに愛とまではいかなくても情程度でもあれば、浮気でおさまっていたかもしれない。そこからさらに離婚というステップに踏みださないといけないというのは、もともと夫婦が壊れているからじゃないか、というのは、いろいろなケースを見ていて感じますね。
小池 今の日本の裁判では不定に対して慰謝料が認められるケースも多いのですが、金額は知れています。50万円から200万円くらい。もちろん相手の資力、経済力によって違ってきますけれど。判例上は認められないケースが増えてきています。この傾向は、これからさらに強まるでしょうね。
池内 昔だったら小池先生がそういうことをおっしゃったら、たしかに女性の側から猛反発があったと思うんですが、今は女性に新しい恋人ができたというケースもたくさん聞いていますから、夫婦関係が壊れた結果なら仕方ないかなと思います。でも離婚が成立する前に、そういう恋人の存在があきらかになるのはまずいことですよね。
小池 そうですね。協議離婚にしろ、調停離婚にしろ、長引く、つまり簡単に離婚できない、大きな要因は経済的な問題です。弁護士がつくのは別れることについては双方異議はないけれど、離婚給付をどうするかで争っているというケースが多いんですね。そういう手続きがまだ進んでいる段階で、相手に異性関係があった、あるいは付き合っている人がいるという情報が入るのはたしかに不利になります。
池内 カウンセリングをしていても、相手のそういうことを知ると、感情的に意地でも別れてやるもんかとなってくるようです。お金をいくら積むという話じゃなくて、籍だけは抜かないで嫌がらせをしてやろうというふうになっていく……、何が目的かご自身でも分からなくなっている方がありますね。

出典:別冊宝島372「それぞれの離婚」

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